3 ( …の導入部を少々 )
父兄とOGへの優待日としている2日目はだが、どんな年でも平日の昼間になるようにと配されてあり。不手際があってはならぬ来賓への接待が無事に済んで、学校関係者たちがほうと息つく日でもあり。(おいおい) それがバザーやゲームなぞではない、単なる調査研究の発表展示であれ、お客様を招いてのご披露となる場には違いなく。質問されたり、慣れない接客をすることとなるお嬢様がたが、とっぴんしゃんなことをしでかさぬよう。はたまた極度にアガってしまって、その末に胃を痛くしないよう。身内が多い目にくるだろう日というのを設け、ワンクッション置かせてあげましょうという、奥深い配慮があっての日取りであり。凝ったクラスでは夏休み返上でビデオ作品を撮影していたりもする反面、個人的にお忙しい人が多くてか、あんまりチームワークがよろしくないクラスでは、何とはなくお座なりな展示ものを並べているだけだったりするのは、よその高校とあんまり変わらなかったり。公演ものは、部参加だと初日と最終日に割り振られており、クラス参加の演目は2日目というのが原則で。それも午後にという指定がなされているのは、これまた、遠来の人や学校がある人を招いていても、見逃さぬよう間に合うようにというぎりぎりの配慮。そして、
「………何で久蔵殿だけ執事役なんですか?」
確か“仮縫いですよ”と何日か前に着せられたのは、ビロウドのロングスカートのワンピースの上へ純白のエプロンドレスを重ねた、お揃いのメイド服じゃあなかったか。だっていうのに、今 目の前に立っているお友達がまとうのは。漆黒の男性向けベストスーツという、きりりと男前な衣紋一式であり。
「だって、三木さんが。」
「接客のあれこれを言うのが、どうにも難しいと零しておいでだったから。」
「う……。」
彼女らもまた日頃から至近にいるのだから、そんなクラスメイトを侮ってはいけない。いつどんな方向から、態度や言動、見聞きされているものか。そして確かに、
「……そうですね。
久蔵殿が“いらっしゃいませ(にこっ)”は、確かに無理があるような。」
その点への理解は追いつくらしい七郎次の言いようへ、別に男装が趣味というのではないながら、メイドさんのようないかにもな少女っぽい格好は苦手なもんだから、助かったと感じているのがようよう判るほどの余裕にて。久蔵自身はうんうんと、どこか他人事のように頷いており。そしてそんな彼女の傍らでは、
「チッチッチッ。シチさん違いますよ?
このカッコの場合は、“お帰りなさいませご主人様(にこっ)”です。」
「……どっちにしたって。」
こちらの彼女は彼女で、意外にノリノリらしい平八で。女の人が相手だったら? そりゃあやっぱり、お帰りなさいませお嬢様、でしょう。うんと年上の女性だったら厭味になりませんか、それ。
「いいんです。(きっぱり)」
“あ……まだ燻ってたか。”(笑)
◇◇
………などという。そんなこんなな すったもんだもありながら、それでもまま、今年も盛況なままにお祭りは続いていたのだが。
「……ん?」
ふと。何かの匂いに気づいて、ひなげしさんこと平八が立ち止まったのは、正面玄関から来賓室までのお廊下の途中。クラスで開店中の喫茶店にてのメイドの当番も、いくらなんでも1日中ずっと割り振られている訳じゃなし。微妙にお客の足も引いたのでと、休憩をいただき、その間に美術部のほうの展示物の点検にとやって来たのだが。
“…何の匂いだろ、これ。”
ホール内には女性に特有な化粧の匂いが充満してもおり。女学園のOGが大挙して来ていたのだから、当たり前っちゃあ当たり前。一人一人からはほのかでも、結構な数がいたのだからこれは仕方がなかろうが、
「そういう匂いじゃないなぁ。」
柔らかで甘い、そんな匂いとは微妙に違って。揮発性のある薬品を思わせるような、むしろひりりと刺すような冴えた匂いであり。
“アルコール系? ベンジン系かな。
それも、油性ペンとかラッカーとか。”
何と言っても美術部員だ、そっちに関係のある匂いだなとは気づいたものの、大慌てで展示した分は絵画じゃないからそうそう塗料は使ってはない。まるきり使わなんだワケじゃあないが、一晩かけて乾かしたから、こうまでの刺激臭はしなかろにと。辺りを見回した平八の視線が留まった先には、彼女がこの夏に仕上げた風景画が掛かっており。学園内から見やった風景というのが、印象派風に色彩主体で描かれていて。盛夏の緑と、その向こうの通りの建物の並びとが描かれていた作品が、
「え…………?」
真っ赤な色にての飛沫を浴びて、さながら誰かがその前で切りつけられでもしたかのように、赤にまみれての無残な姿にされていたのだった。
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*あああ、やっぱりかと、
思ってた通りの展開だと思った人、手を挙げてっ!(こらこら)

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